【ピックアップ記事】今月の法話
ダイバの成仏
倉橋観隆
釈尊の時代のお話です。釈尊の出家前のお名前はシッダルダでした。その父方のいとこにダイバという男がいました。どちらも一国の王子であり、文武に優れ加えて共にイケメン。女性にも人気がありました。いとこという近い関係もあり両者はライバルでした。といっても一方的にライバル意識をもっていたのはダイバの方でした。青年になり二人は同じ女性を好きになってしまった。結果、彼女はシッダルダの妻に、男児も授かりました。幸せな家庭でした……。しかしシッダルダはそんな家庭を捨てて出家し、遂に悟りを開き仏陀となり、人々に仰がれるようになったのです。
さあ、許せないのはダイバです。思いを寄せた女性を奪い、それを捨て出家し更に大勢の弟子が集まった。自分も同じ様な存在になってやる。シッダルダ以上の厳しい修行をし不思議な力を得、教団を創りました。しかし釈尊には到底及びませんでした。
遂には釈尊の弟子たちを迫害し、更に釈尊の暗殺を九回も謀ったのです。
その結果、大地が裂けて生きながらに地獄に堕ちて行ったのでした。
総ての仏教経典にはダイバは極悪人として、ここで話が終わっています。しかし唯一、法華経にはこの続きが説かれていたのです。
地獄に堕ちたダイバは地の底で長く壮絶な苦しみを味わいました。そんな時、天から「諸法実相」という釈尊の声が聞こえて来たのです。その声にダイバは、はっとしました。
「そうだ俺は勝負する相手を間違えていた。人に勝つのではなく、自分の弱さに克たなければいけなかったのだ!」すなわち人と対比する「ねたみの毒」に心が犯されていた自分に気付いたのでした。
法華経の極意、「諸法実相」とは他との比較ではない。私は私にしかない持ち味を活かす。すなわち「ナンバーワンからオンリーワンへの転換」だったのです。
ダイバは深く深く懺悔し見事仏界へ上がって行きました。めでたしめでたし。